その9 パンもおむすびもころころコロリン
今回はおむすびと丸パンです。
万里がエッセイ集『旅行者の朝食』の中で、ロシアと日本の、それぞれの国でよく知られた童話を題材にした文章を書いているので。 (以下の引用はすべて『旅行者の朝食』より)
おむすび
わたしたちがプラハにいた六十年前、海苔を巻いた梅干しのおむすびは特別な日の大ご馳走だった。当時、和食の食材なんて手に入らなかったのだから。万里はその辺りの実情も同書の別のエッセイに書いている。
五年ぶりに日本に戻ったとき、とにかく毎日お米のご飯が食べられることが、嬉しくて嬉しくてしょうがなかったのを昨日のことのように覚えている。
わたしが結婚してから一番よく作った料理はおにぎりかもしれない。ひさしさんが芝居の執筆で缶詰中の差し入れはおにぎりだし、家で書いているときも、締め切り間際に食べるのはおにぎり、と決まっていた。今気が付いたが、子どものころはおむすび、といっていたのに、最近はおにぎり、とよんでいる。周囲もおにぎりという人が多い。みなさんはどうですか?
まあそんなわけで、たくさんにぎっただけあって、おむすびはわたしの得意料理なのだ。
万里が恋焦がれた海苔を巻いた梅干しのおむすび、それにコロコロ転がる丸い形のを作ってみた。
レシピというほどではないが、コツはただひとつ、あんまりギュウギュウ、かたくにぎらない。くずれそうなくらいふわっとにぎる。それだけ。
いまや世界中でおむすびが流行りだしているとか。そのうち『おむすびコロリン』も世界中で読まれるようになるかしら。
丸パン=カラボク
ロシアの丸パンのお話は、『まんまるパン』、『まるぱんコロコロ』、『おだんごパン』などのタイトルになって絵本や紙芝居、歌で紹介されているからご存じの方も多いでしょう。
以下は万里が書いたあらすじ。
万里のエッセイにはこのあとすごいオチがあるので、ぜひ実際に読んでお確かめください。
カラボク(丸パン)の歌はいまだに耳に残っている。それで、わたしの記憶だと、粉に混ぜ込んでいるのはカッテージ・チーズ=トゥヴォログではなくサワークリーム=スメタナなのだ。便利な時代で、ネットで検索したらロシアのこのお話を見つけることが出来た。やはりスメタナだった。
ところがレシピが見つからない。カッテージ・チーズをトッピングした菓子パンのレシピはあるのでそれにしようか、と迷ったけれど、カッテージ・チーズがのっかっていたのではパンは転がらない。なので、サワークリーム入りの丸パンを自分で作ってみた。
迷ったのは、パンはふつうオーブンで焼くのだが、歌ではバター(油)で焼かれて、となっていること(万里は塗られて、と書いたけど)。なので、オーブンで焼いている途中、万里の書いたようにバターを塗った。そして半分はオーブンで焼かずに揚げパンにしてみた。
出来はまあまあ。オーブンで焼いた方が、サワークリームの香りが強く出る。温かい方が美味しいので、食べるときはオーブントースターで軽く焼くといい。
〈材料〉
フランスパン用小麦粉250g
(または強力粉200g+薄力粉50g)
サワークリーム90㏄ ぬるま湯約90㏄
インスタントドライイースト3g 砂糖10g 塩4g
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〈作り方〉
(1) | 小麦粉をふるう。 |
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(2) | ボールにふるった小麦粉、インスタントドライイースト砂糖、塩をいれ、まぜる。 |
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(3) | サワークリームを加え、混ぜながらお湯をそそぐ。その日の湿度によって、入る水分量は変わるので、少しずつ加える。耳たぶより少しやわらかめ。(料理では耳たぶぐらい、という言い方をする。調理師学校に通っていたとき、耳たぶなんて人によってかたさ違うだろう、と周囲の子の耳たぶ触ったら、おなじくらいだった) |
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(4) | 台の上に取り出して、均一になるまでよくこねる。最初は手につくが、こねていくうちに離れるようになる。 |
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(5) | 1時間ほど発酵させる。発酵機能の付いたレンジなどお持ちの方は使ってください。わたしは蒸し器の下の段に熱めのお風呂くらいのお湯をいれて、上にボールに入れた生地を載せ、ふたをして寝かせています。クネドリキの回で紹介した方法でもよい。適時、下の段に熱いお湯を足します。 |
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| 指に粉を付けて、生地を押しても戻ってこなければOK。 |
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(7) | 小分けにして丸める。5個に分けてみた。 |
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| ふたたびあたたかいところで15分発酵させる。 |
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(8)-1 | 160℃のオーブンで15分焼く。いったん取り出して表面に溶かしバターを塗る。 |
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| 180℃でさらに10分焼く。 |
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(8)-2 | 160~170℃の油で5~6分揚げる。 |
少し冷ましてから食べる。冷ますとき、窓辺に置くと転がっていくので要注意! |
お米とパン、どちらの国でも一番大切な食べ物がおとぎ話になったんですね。多くの童話には教訓があるけれど、この丸パンのお話の教訓はなんだろう?しいて言えば勝手に出歩くな、調子に乗るな、でしょうか。でも出歩かなくてもじいさんばあさんに食べられちゃうのだから、転がって楽しく散歩して、歌も歌ったりして、かえってよかったのかも。
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