このページでは、米原万里ゆかりの方が思い出を披露してくださいます。
2016.11.1 ◆清川桂美 忘れられない3つの高校講演会 笑いのビッグウェーブが止まらない! ――《追っかけ》出現、質問攻めの大人気! 講堂(体育館?)最前列の利発そうな男子生徒は笑いをこらえて顔が真っ赤。何度か首を回して、脇に立っている先生の顔色をチラチラと窺いながらも、背筋を伸ばしていたけれど、もう限界! 突如、お腹を押さえるように前かがみになったと思ったら、すぐ海老反りになって、ガッハッハ! 大笑いは隣りの子に、後ろの列に……と、あっという間に伝染して、700人を超す大笑いのウェーブが起きました。先生方も肩を揺すって笑っています。 これは、2005年6月末、石川県金沢市での「高校生のための文化講演会」中の出来事でした。 《イナバウアー》も続出の大笑いのウェーブはなかなか収まらず、講演者の米原万里さんは一瞬きょとんとして、マイクを通して「えっ、みんなどうしたの?」。これでまた爆笑。 「愛の法則」というテーマで、「女が本流、男はサンプル!?」という衝撃的な論理を独自に展開し、例を挙げて動物のオスとメス、ヒトの男と女の話から、教育の現場でありながら、得意の下ネタをさりげなく連発していました。すごくHな話だったわけではなく、フッと笑ってしまえばそれだけのことだったかもしれませんが、小さな笑いを飲み込んで、いくつも我慢していたので笑いが爆発してしまったのです。聴いている全員がそうでした。講堂中に轟く、眠気も吹き飛ぶ大笑い。先生のコメントは、いみじくも「今回はめずらしく、居眠りする子がいませんねぇ」 講演後がまた凄かった! 講演内容がおもしろかったことはもちろんですが、万里さんはTV番組にコメンテーターとして出演し、的確な意見とズバズバとした物言いに溜飲を下げる大人のみならず、若者にも大変な人気がありました。 校長室に引き上げるときに、「きゃぁ~! 米原先生~っ!」という声とともに小走りで駆け寄ってくる生徒たちには、本当にびっくりしました。まるでアイドルのような《追っかけ》!! 校長室で生徒会と新聞部のインタビューを受けたあと、廊下に出ると、まだ生徒がいっぱい詰め掛けていて、質問攻めでした。なかにはちゃっかり個人的な恋愛相談までする男子もいましたが、誰も批判することなく耳を傾けていたのは、やはりお年頃の高校生ですね!(^_*)V この時の講演と前年の秋に訪れた四国・愛媛県の高校での講演「国際化とグローバリゼーションのあいだ」をメインにまとめて本の形にしたのが、集英社新書『米原万里の「愛の法則」』(2007年8月刊行)です。 残念ながら万里さんはすでに逝去されていて、新刊は墓前にお供えしました。初版本の帯に使った笑顔のきれいな万里さんのスナップ写真(撮影:小池守氏)は、おそらく生前最後の写真かもしれません。 高校講演会の出張でお供したのは3回ですが、いずれも強烈な印象の、忘れられない講演会ばかりです。 (おわり) Tweet |
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プロフィール 清川桂美(きよかわ かつみ) |
1952年、東京生まれ。朝日出版社入社。初仕事は世界文学案内・索引の手作り、GWは偏頭痛で寝込む。月刊誌「エピステーメー」、英語辞典や大学生用フランス語テキスト編集に携わった後、集英社に転職。集英社新書の準備・創刊に立会い、米原万里さんに突撃依頼し、数年がかりで新書『必笑小咄のテクニック』を上梓。その後、翻訳書編集部、デジタル出版室を経て2013年に退社。現在は出版管理室でサポート。 |
『思い出話々』とは 米原万里のエッセイ「単数か複数か、それが問題だ」(「ガセネッタとシモネッタ」所収)に由来する。 ロシアからやってくる日本語使いがそろいもそろって「はなしばなし」という奇妙な日本語を口走る。(略)…この日本語もどきの版元が判明した。日本語学の第一人者として名高いモスクワ大学某教授。 「日本語の名詞にはヨーロッパ諸語によくある複数形はない。しかし一部の名詞にはインドネシア語などと同様、反復することによって複数であることを示すルールが適用される。たとえば、花々、山々、はなしばなし……」 |