このページでは、米原万里ゆかりの方が思い出を披露してくださいます。
2016.10.1 ◆清川桂美 忘れられない3つの高校講演会 《犬》の四国講演会(4) 講演のテーマは「国際化とグローバリゼーションのあいだ」。昨今、国際化という意味でグローバリゼーションという言葉がよく使われているが、本当の意味は……、というのがポイント。 「英語で国際はインターナショナル。インターは《あいだ》という意味で、国と国のあいだ、それが国際。ほらっ、インターハイって言うでしょ? ハイスクール、つまり高校と高校のあいだ、たくさんの高校同士でスポーツとかを競い合うの」。ここで、生徒はウンウンとうなずく。万里さんは聴き手の心をつかむのが本当に上手! 「みんなの知ってる地球はアースでしょ? グローブは地球儀、地球の丸い形を強調するときに使うの。だから、国と国どころか国境を越えて地球上を覆い尽くす規模なの」 高い壇上からでも、言葉は高校生のところまで降りてきて、高校生によくわかる例、わかりやすい言葉で語るのです。いくら英語が苦手な生徒でも、こんなふうに説明してくれれば納得します。ですから、「本当のグローバリゼーションは、アメリカが自分の物差しで世界各国に強要していくこと」と語ったときには、それまでおとなしく聴いていた生徒たちがあちこちでざわめきました。 「そうだったのか!」「へぇ~?」「そっか、そっか」 折しも、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領が命じて2003年にイラク侵攻後、戦争は泥沼化、大量破壊兵器も探索したものの見つからず……、と世界中を騒がせている時期でした。国際問題や政治問題にあまり関心がない生徒でも、ストンと腑に落ちた話でした。 英語が苦手でも大丈夫! ――外国語をもうひとつ また大きくざわめきが起きたのは、サミットの同時通訳は必ず英語を介して日本語に通訳されると、説明されたときです。これには私自身も大変びっくりしました。外国語A→外国語Bは直接なのですが、日本語のときだけは、まるで英語が鎖国時代の長崎の「出島」のように、必ず英語にいったん訳してから外国語にまた訳すのです。逆も然り。他の国々は直接コミュニケーションをしているのに、日本語だけは常に英語のフィルターを通している。冷静に考えればおかしな話ですが、これをずっと疑問視しなかった日本が、英語(強国の言語)一辺倒だったからで、これを《異常》と万里さんは断罪しました。 そして英語偏重のはらむ危険性を指摘して、英語以外のもうひとつの外国語を学ぶことを勧めました。単に外国語の習得ではなくその国の文化をも学んで、さまざまな視野から物事を見て批判精神も養われるからです。 「英語苦手でもロシア語得意な人はいっぱいいて、ロシア語が上手になると英語もできるようになったりするのよ」「英語が苦手でも大丈夫! かえって国語ができるようになるわよ」。自ら実践し、プロとして大活躍している万里さんのアドヴァイスですから間違いありません。 これには万里さんが少女時代にプラハのソビエト学校でロシア語を学んだ経験が、そして文化的背景の異なるさまざまな国のクラスメートと交友を深めた裏づけがあるからなのです。 (つづく) Tweet |
前へ< 1 ,2 ,3 ,4 ,5 ,6 >次へ |